以前ネット情報で知ったお話から。

 妻の葬儀を終え、後日納骨のために遺骨を携えて飛行機に乗った客がいました。遺骨を持ち込めるかどうか、あらかじめ航空会社に問い合わせてありました。愛する妻の遺骨を預け荷物にするのは忍びないので、機内に連れて行きたいと思っていたのでしょう。

 搭乗後、座席に着くとキャビンアテンダント(CA)がやって来て尋ねました。「お隣の席を空けてあります。お連れ様はどちらにおられますか。」「上の棚です。」そう答えると、C Aは棚から遺骨の入った荷物を下ろして座席に置き、荷物にシートベルトを締めたのです。離陸後のドリンクサービスの際も、「これはお連れ様の分です。」と言って、飲み物の入った紙コップを置いていったのだとか。この客にとって、そのフライトは忘れ得ぬものになったのは言うまでもありません。

 もう一つ、ネットニュースから。ラーメン店で客の携帯電話が鳴りました。客は電話に出ましたが、込み入った話のようでなかなか戻って来ませんでした。ようやく通話が終わって客が席に戻った時、店主は一度出して伸びてしまったラーメンをさげ、もう一度熱々のラーメンを提供し、こう言いました。「お客さんに冷めたラーメンは食べさせられませんから。」客は感謝してこれを食べ、2杯分を払おうとしました。ところが、店主はこれを固辞し、1杯しか食べてもらってないからと1杯分の料金だけを受け取ったのです。客は、このラーメン店の美味しさと人気の秘密は、こうした店主の姿勢に表れていると思ったのでした。壁には「一杯入魂」と書いてありました。

 最後は園長の実体験。出張で新幹線に乗っていた時、こんな車内放送が流されました。「ただいま、洗面所にお薬の入ったポーチのお忘れ物がございました。お心当たりのある方は、客室乗務員がお近くをお通りの際にお声がけください。」日本人はやっぱり優しいなあと感心していたら、程なくしてまた放送がありました。「先ほどのお薬の忘れ物は、持ち主の方がわかりお返しすることができました。」ヒョエー!すごい!そこまでするかー!もっとも、気になっていた人にとってはホッとできるお知らせだから、この丁寧さには感動さえ覚えました。

 ここに挙げた3つのエピソードは、すべて「しなくても良いサービス」のお話です。しかも、いつも同じようにできるとは限らないことでもあります。飛行機が満席なら隣席をブロックしておくことは難しいでしょうし、日本の案内関係の放送は過剰だという批判もあります。ラーメンに至っては、食べなかったのは客の都合です。ですから、しなくても良いサービスだし、下手をすれば「前はしてくれたのに」とか「私の時はしてくれないのか」という、新たなトラブルの元にもなりかねません。だから、公平性の原理などにのっとれば、良かれと思ってもしない方が良いという判断もあり得ます。しかし、してもらえば嬉しいことはたくさんあります。上記のエピソードなどは、当事者だけでなく、周囲も幸せになるサービスです。不公平だと批判されてもなお、すべきサービスだったのかもしれません。だから、今できること、そしてその思いを表すことは素敵なことなのだと改めて思ったのでした。

園長:新井 純

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