5年前、バングラデシュの田舎の村で、就学前の子どもたちに読み書きや生活習慣を指導しているプレスクールの先生たちと意見交換をしていた時のことです。夢はありますかとの私の問いに、高校を出るか出ないかくらいのひとりの凛とした女性教師が「将来は警察官になりたい」と答えました。

 彼女は母子家庭で、学校に通うお金を稼ぐために現地NGOのプレスクールの先生としてアルバイトをしていました。月収は1,500円。十分な金額ではありませんが、大人の労働者の平均月収が7,000〜1万円であることを思えば、高校生のバイトとしては破格の条件ではあります。だから、彼女にとってプレスクールの教師として選ばれたのはとても運が良いことと同時に、将来を期待されるほどの人材であったとも思われます。

 しかし、警察官になるのは彼女にとって極めて難しいことでした。なぜなら、警察官の試験に合格するためには「賄賂(わいろ)」が必要だからです。私たちの常識で考えるなら信じられないことではありますが、公務員として高額な給与が保証されるだけに、発展途上の彼の地ではそのようなことがまかり通ってしまうのです。

そんな、かつてはアジア最貧国とまで呼ばれたバングラデシュに、4年ぶりに行ってまいりました。日本キリスト教保育所同盟が支援しているプレスクールの視察と、より有効な支援のための現地NGOとの協議、そして子どもたちやスタッフとの交流を目的とした旅です。これまでに世光保育園の保育士も、2名が現地を訪れています。今回は次年度以降の保育士たちのための現地研修の可否判断やルート検討なども兼ねていました。

インドの東隣にあるバングラデシュは、農業と繊維産業が盛んで、近年は日本をはじめとする諸外国のアパレル企業が進出しているために、急速に近代化が進んでいると言われています。試しにユニクロの製品をお持ちなら、製品タグを確認してみてください。Made in Bangladeshと書いてあるものが案外多いですよ。

近代化していると言われてみれば、確かに首都ダッカと地方都市を結ぶ道路の整備や、鉄道の整備は急速に進んでいるように感じました。まだ開業はしていませんが、日本企業が参加している鉄道整備事業で「自動改札」が導入されるとか。客車の屋根に人が群がるバングラの列車を知っている身としては、果たして自動改札が意味をなすのか大いに疑問ではあります。それでも、海外の支援に頼り切っていたバングラデシュ人が、「自分たちの税金で大きな橋をかけた」と胸を張って話しているのを聞くと、こちらまで嬉しい気持ちになるのでした。

村を訪れると、警察官になりたいという夢を持っていた先生の子どもを紹介されました。2歳くらいでしょうか、人見知りしない男の子で、私に抱かれてもニコニコしていました。でも、お母さんには会えませんでした。出産時のトラブルで命を落としてしまったのだそうです。新生児〜2歳児までの死亡率が高い国のことですし、日本だったら助かっただろうかなどと色々思い巡らせました。私たちを歓迎しつつも、娘のことを話した後涙ぐむおばあちゃんを見ていたら、かけがえのない命を生きるということは、ただそれだけで尊いことなのだと思い知らされました。バングラデシュでも、もちろん日本でも。
園長:新井 純


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